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【SALLiA’s リトリート第8回】人のストーリーを紡ぐお酒を造る『中野酒造』
私が「思い入れのあるお酒は?」と問われたら、真っ先に「中野酒造のちえびじん」と答えるだろう。
今回はお酒にこだわりが全くなかった私が生まれて初めて、ハマりにハマった「ちえびじん」シリーズを造る『中野酒造』を訪れた。
推しのアイドルに会うような心持ちで扉を開くと、6代目である中野淳之さんが爽やかに出迎えてくれた。
明治7年から続く酒蔵。毎年9〜翌4月は日本酒を造り、5〜6月は焼酎を造っているそうで、入り口に掲げられた「しるしの杉玉」は、まさにそんな新酒が出来た合図にもなっているという。
この「しるしの杉玉」が緑色から薄緑、茶色とその色の変化に合わせて酒蔵で出来上がる日本酒の味わいの変化も分かるという、まさに蔵元ならではの趣のある光景だ。
『中野酒造』が現在展開しているブランドは、創業当時からある「智恵美人」だけでなく、13年前にひらがな表記の「ちえびじん」というブランドを立ち上げ、白ワイン酵母で仕込んだ純米吟醸生酒や、レモンティーリキュールなど様々な種類が楽しめる。
驚きなのが、毎月一つは期間限定の新作を世に出しているということ。
「ちえびじんがお酒を知らない人にとって、もっと身近になるように」という想いと「あて(おつまみ)」がないと飲みにくい日本酒の弱点を逆手に取り、12ヶ月分の食材に合う日本酒などを発案しているそうだ。
今まで通りの娯楽や楽しいことが制限されていたコロナ禍で、日常の食べることや飲むことの尊さは、誰もが今まで以上に実感しているだろう。
私が「ちえびじん」と出会ったのは、コロナ禍になってすぐの頃で、ファンの方に教えていただいたちえじびんシリーズの「紅茶梅酒」を飲んで感動したのがきっかけだった。
当時は東京に住んでおり、外食もできず、カフェにすら行けず、ひたすら家の中で料理を作って食べる。シンプルに「生きるだけ」という生活を強いられていた時だった。
そんな日常の中で、仕事終わりに自分へのご褒美としてたまに飲む「ちえびじん」が本当に心の支えだったのだ。
「ストーリーや人の繋がりを生むお酒を造りたいんです」と真っ直ぐな目で私に話してくれた中野さん。
農家さんと蔵元、そして飲み手と蔵元というような現実的な「つながり」だけでなく、美味しいお酒を介して、打ち解ける機会や会話のきっかけのような「つながり」を作っていきたいのだという。
私のように「ちえびじん」に魅せられた海外に住んでいる日本人の方や、海外の方もコロナ禍以前には足を運んでくれたこともあり、そういった「つながり」がお酒造りのモチベーションにもなっているそうだ。
「ちえびじん」は、2021年フランスで行われた日本酒コンクールにおいてプラチナ賞を受賞するなど、海外からの評価も高い。しかしそれがジレンマになっていた時期もあったと中野さんは語ってくれた。
「受賞したあと、悩むことも実は多かったんです。受賞したことにフォーカスしていただくことはありがたいですが、やはり人との繋がりのエピソードを生むお酒造りを目指していくことが大切だと思っています」
『中野酒造』の日本酒は、蔵の地下200mから汲み上げる天然水と山香町のお米を中心に用い、地元の人との繋がりで造り上げてきた。
そしてコロナ禍で地元・大分、そして杵築の人との繋がり、従業員との繋がりにも救われていることも多いと話す中野さん。
従業員の方々も、見学に来た私に優しく、そして明るく接してくれ、中野さんと和気あいあいと話す皆さんを見て、チームワークの良さを感じた。
前年と同じお酒は造らず、常により良いお酒造りをアップデートするために挑戦を続けていく『中野酒造』。
私を支えてくれたお酒を造る人はどんな人たちなんだろう?
そう思いながら、コロナ禍の東京で一人「ちえびじん」を飲んでいたあの日の私に伝えたい。
「人との繋がりによって救われ、だからこそ人との繋がりを大切にしている人たちが造っているよ」と。
大分/杵築市/おでかけ/酒造/お酒/リトリート/連載
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